カリス姫の夏
華子さんの行動の理由を追及せずにはいられない私に、華子さんは予想外の優しさを見せた。
「いいのよ、この方が。
あいつの……総一郎の将司への思い入れはハンパなくてさ。
昔っから一つのことに夢中になると他の事が見えなくなるところあるんだよね。
実家から将司引き取ってからは、なんかってゆうと将司が…将司がって。
将司が風邪引いた、将司が食欲無いって言っては仕事急に休むんだよ。
そりゃあもう、ひどかったんだから。
だからさ、これでいいのよ。
総一郎にとっても、将司にとっても」
芝生の上に体育座りすると、華子さんの背が優しく丸みを帯びた。きつく一本に束ねられた髪に取り残された後れ毛が、風に揺れている。
「将司がいなくなったって知った時の総一郎ときたらさ、そりゃあもう……」
将司を見つめている華子さんの口調は、さみし気だ。華子さんの愛情が、将司だけに注がれているわけでは無いと伝わる。
「その時、総一郎の顔ったらさ……」
私も唇をつぼみ、慎重に言葉を選んでから口にした。
「華子さん、もしかして………
もしかして、総一郎さんのこと……
本当は……」
華子さんの背中が、小刻みに揺れている。総一郎さんの恨みを、その小さい背中で全て受け止めているのかもしれない。なによりも辛い役目を背負うのが、自分の役割なのだと言い聞かせて。
どう、声をかければいいのだろう。
若輩者のなぐさめなんて華子さんには似合わないと知りながら、それでも何か言葉を掛けたくて、私は華子さんと並んでしゃがみこんだ。
「華子さん………」
「くっ……くっ………くっ……」
横顔の華子さんは両ひざに口元を押しつけ、その感情を押し殺すように肩を震わせている。けれども隠しきれない感情が湧き水のように溢れそうになり、必死でその出口を抑えていた。やがて、抑えきれなくなった湧き水は掘り当てられた温泉になり、ものすごい勢いで噴出した。
「くっ……くっ……くわっっっはっはっはっはっ………
将司がさ。
将司が行方不明になったって聞いたら、総一郎のやつ泣くのよ。
男のくせに。
わんわんって声だして、涙流して泣くのよ。
あたし、もう、おっかしくっておっかしくって。
ふわっ、ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、はっ、はっ、はっっっ…………」
全身を揺らし涙を流しながら大爆笑する華子さんに、人の道を問う気力はもうない。私は閉じてしまいそうなほど薄く目を開き、つぶやいた。
「はぁ、つまり華子さんは、どSなんですね」