Doll‥ ~愛を知るとき
あの時は、愛翔のことが引っ掛かっていたから、直ぐには動けなかったと、樹は言った。
敢えて、あたしを突き放すような言動をしたのは、あたしに対する浩也の暴力を防ぐ為だったって‥。
無茶なことをして、子どもに危害を加えさせちゃいけない。
一人になった部屋で、ずっと考えていたって‥。
「けど、結論なんか出なかった。強行突破しかねーって、ここまで車飛ばして‥。」
電話を受けなかったのも、あたしを案じたから。
樹は、触れなかったけど、そう感じていた。
何度、呼び鈴を鳴らしても出て来ない。
危険を感じた樹は、非常階段からL字になったベランダに飛び移り、ガラスを割って中に入った。
「そしたら、愛波は気を失ってた‥。もっと早くに行動すべきだったって、オレは自分を許せなかった。」
哀しみを帯びた、樹の声が胸に響いている。
あたしの涙は、零れ続けていた。
「オレにも責任はある。それは分かってる。けど、仮にどんな事情があったって、何もかもを人のせいにして、人の痛みを分かんねーアンタに愛波を幸せには出来ねーよ。」
そう言った樹に、浩也は何も答えなかった。