舞う風のように
だが、八尋。
八尋には心の底から安らげる場所を見つけてもらいたい。
腹を抱えて大笑いできるような仲間を作って欲しい。
ありのままの、本当の自分を見せられるようになってほしい。
俺じゃ無理だ。
八尋は俺の後輩だ。
先輩というものは、後輩を守るものだと俺は思っている。
八尋はきっと、何かを抱えている。
無理に聞き出そうとは思わない。
人間、触れて欲しくない事は有る物だ。
逢えてそれをほじくり返せば折角癒えてきた傷をまた開けることになる。
そんな残酷の事をしてまで聞く必要がどこにある。
自分は、他人の事に無頓着な冷たい人間だと思っている。
間違ってはいないはずだ。
普通の奴らならば、ここでその傷を共有し、その痛みを和らげてやりたいなどと考えるのだろうか。
だが、俺はそんな事はしようとは思わない。
ただ、横で静かに、だが美味そうに甘味を喰らうこの男を、死なせたくない。そう思った。