リップフレーバー
「今の子供達ってさぁ、もう化粧するんだよね」
陽希の用意してくれた遅い夕飯を食べた後、テレビの前のソファに2人で並んでまったりとする。
彼が炒れてくれた、マウイのお土産らしいコーヒーを飲みながら。
フレーバーコーヒーからは、何とも言えないショコラな香りが漂う。
彼に言わせれば、夜中のコーヒーもアウトらしいけれど、どうしても飲みたいとリクエストしたのだ。
「美知佳さん、言い方がおばさん臭い」
「フン、何とでも言いなさい。三十路は、おばさんですから。だからさっきみたいなフルーツな香りさせてると、違和感プンプンだよね」
冷たく言い放つと、隣に座っていた陽希は少し困った顔をしてこちらを覗き込む。
「でも、美味しかったよ?」
陽希のフォローが可笑しくて、つい、にやけてしまう。
「あれね、今回の付録のサンプル。今回コスメセットが付録ってことになってね。
夕方から色々試しながら、ああだこうだってなって。そのうち、どうせならリップに合わせて、記事の方もファーストキスの話しなんてどう、とかなっちゃって」
私は、そのフルーツフレーバーの唇で帰って来てしまったのだった。
陽希はハハハと大きく笑い、私の髪をさらっと撫でた。