リップフレーバー
彼の表情は見ていて飽きない。

困った顔も、屈託なく笑う姿も。

「で、美知佳さんのファーストキスはいつ?」

「そんなの、忘れた」

「嘘だ、普通覚えてるでしょ」

そりゃ、忘れる訳無いけどさ。

興味津々の顔に少しウンザリしながら答える。

「高3の冬休み」

それで?それで?と聞く姿は、構ってちゃんのワンコそのもの。

私は記憶の糸を手繰り寄せる。

中学高校とバスケットボールが青春だった私が、ボール以外追いかけていないと気付いたのは、高3で部活動を引退した後だった。

周りを見渡せば、皆それぞれにカレカノがいて、それに引き換え私にいるのといえば、バスケット部の活躍でできた女子ファンだけ。

後輩達が慕ってくれるのは嬉しかったけれど、170cmを超えた長身の私を女の子扱いしてくれる男なんて皆無だった。

ただ、1人を除いては。

何かにつけ手を貸してくれたクラスメート。

気の優しい男の子だった。

冬休み、ただ1度のデートらしきもの。

映画を見た帰り道、ただ1度の触れるだけのキス。

甘さより切なさが募った。

何故なら彼には彼女が居たから。

私が話し終えると、ふぅ~んと一言だけ。

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