だから私は雨の日が好き。【花の章】





「水鳥にしか任せられない、と言っただけだ。それ以上の信頼があるか?」


「一緒に働きたくない、と聞こえたわ」


「確かに、それもある」


「なっ!!何よ、その言い草――――――」

「お前と一緒だと、自分の無能さを思い知るからな」




思い知ったんだ。

自分の無能さを。



俺が育てているつもりだった。

一人前にしてやるつもりだった。


けれど、本当の彼女は全てを持っていた。

この十年一緒に仕事をして、確かに俺は彼女を育て上げてきたのかもしれない。

ただそれは『イチ社員』としてであり、それが彼女に必要なことだったのかどうか、俺には分からない。


彼女は『経営者』になるべくして生まれ、『経営者』になるべき存在だった。

それを感じた時、俺は二度と一緒に働くことは出来ないのだろう、と想ったのだ。



俺が言葉を遮って真っ直ぐ街を見下ろしていると、彼女がそっと腕を組み寄り添ってきた。

その甘えたような姿は『傍に居たい』という彼女の気持ちそのもので。

俺はそんな彼女の顔へと視線をずらした。


そこには。

不安など一つもないような、安心しきった顔をした水鳥がいた。




「馬鹿ね。あなたがいなかったら、私はこうして自由に仕事なんて出来なかったわ」


「それはお前自身が変わったことだろ?俺がしたことじゃない」


「そうじゃないのよ」




そう言って、彼女は少し背伸びをして俺の頬にキスをした。

柔い熱が離れていくその感じが、いとしくてたまらなかった。




< 287 / 295 >

この作品をシェア

pagetop