だから私は雨の日が好き。【花の章】
「水鳥にしか任せられない、と言っただけだ。それ以上の信頼があるか?」
「一緒に働きたくない、と聞こえたわ」
「確かに、それもある」
「なっ!!何よ、その言い草――――――」
「お前と一緒だと、自分の無能さを思い知るからな」
思い知ったんだ。
自分の無能さを。
俺が育てているつもりだった。
一人前にしてやるつもりだった。
けれど、本当の彼女は全てを持っていた。
この十年一緒に仕事をして、確かに俺は彼女を育て上げてきたのかもしれない。
ただそれは『イチ社員』としてであり、それが彼女に必要なことだったのかどうか、俺には分からない。
彼女は『経営者』になるべくして生まれ、『経営者』になるべき存在だった。
それを感じた時、俺は二度と一緒に働くことは出来ないのだろう、と想ったのだ。
俺が言葉を遮って真っ直ぐ街を見下ろしていると、彼女がそっと腕を組み寄り添ってきた。
その甘えたような姿は『傍に居たい』という彼女の気持ちそのもので。
俺はそんな彼女の顔へと視線をずらした。
そこには。
不安など一つもないような、安心しきった顔をした水鳥がいた。
「馬鹿ね。あなたがいなかったら、私はこうして自由に仕事なんて出来なかったわ」
「それはお前自身が変わったことだろ?俺がしたことじゃない」
「そうじゃないのよ」
そう言って、彼女は少し背伸びをして俺の頬にキスをした。
柔い熱が離れていくその感じが、いとしくてたまらなかった。