だから私は雨の日が好き。【花の章】
「どこで何をしていこうとも、俺はずっと傍にいる。水鳥の教育係を退くつもりはないからな」
「・・・いつまでも教育係じゃ嫌です。『尾上さん』の隣に立てるパートナーになりたいから」
「ハハハッ!お前も『尾上』じゃないか」
「たまにはいいでしょ?懐かしい呼び方も」
「『カズ』でいい。ずっと、そう呼んでてくれ」
「・・・もちろんよ」
目を合わせて、二人で笑う。
夏の気配が少しだけしている風が彼女の髪の毛を攫っていく。
目尻に残った涙の跡を自分の親指で掬い、そのまま彼女にキスをした。
初めて彼女に出逢ったのは、十六年前。
あの頃は、こんな風に人前で笑えるようになるなんて思わなかった。
自分の本当の顔を、家族以外に晒すことになるなんて、思いもしなかった。
距離が近づき表情を変えていく彼女を見つめて、『本当の顔』を先に晒したのは、きっと俺だった。
本当は知って欲しかった。
外には見せない俺がいることを。
それも全部『俺自身』なのだということを。
彼女にも知って欲しかった。
自分自身を理解してもらうことが、どんなに幸せなことなのか、を。
顔を離してそっと頬に触れて距離を取る。
これ以上一緒にいると、彼女を仕事場に送り届けるのが嫌になりそうだったので、少しだけ困った顔をして笑った。
それを見て嬉しそうに笑う顔は、俺だけが知っている幸せに満ちた顔だった。