だから私は雨の日が好き。【花の章】
「さて。そろそろ行かないと。業者と大崎君が待ってるわ」
「・・・そうだな」
「拗ねないでよ。亜季と一緒に仕事してるのはそっちでしょ?お互い様なの」
俺から離れて、俺の車の助手席のドアを開ける彼女。
花束を離そうとする気配がないので、仕方なくドアを持って乗りやすいスペースを作ってやることにした。
上品な笑みを浮かべて乗り込む姿は『デキる女社長』そのもの。
仕事の顔は自分の奥側へ踏み込ませないための武装であり、その表情が人に『近寄り難い』と思わせるためのものだ。
すっかり仕事の顔になった彼女を見て、俺も運転席へと乗り込んだ。
隣では凛とした空気を纏っている女社長の顔と。
ふとした時に花束を見つめる俺のパートナーの顔の両方が見え隠れしていた。
キーを回してエンジンをかける。
心地よい音と振動が社内に響いた。
「ねぇ、カズ」
「どうした?」
「言うの忘れてたんだけどね」
「もったいぶるな、って」
「・・・妊娠したみたい、ビックリしちゃった」
固まっている俺に、彼女は信じられないくらい綿密なプランを提案してきた。
自宅兼オフィスの申請にしてマンションを一部屋借りたいと考えていること。
大家さんから、隣の人が引っ越すので少し安価で売りに出そうと考えていること。
姉夫婦が九月をメドに日本に帰国すること。
産んだ後は姉がまとめて面倒を見てくれるので、何一つ心配ないこと。
なんなら、自分の親や俺の両親が喜んで面倒を見てくれるであろうこと、まで見越していた。