だから私は雨の日が好き。【花の章】
「だから、産むわよ。何があっても」
「・・・勘弁しろよ」
ハンドルに額を付けたまま項垂れた俺に、真っ直ぐな視線が突き刺さるのを感じる。
其処に揺らぎなどなく、『何を言われても産む』という決意意外、何一つ持ち合わせていないのだろう。
ガサッと音がして、花束のビニールが揺れる。
その音だけで彼女が不安になった気持ちを何とか奮い立たせているのが分かった。
俺は大きく息を吐く。
妙に響くエンジン音が、二人の間に静寂が訪れたことを物語っていた。
「本当に、勘弁しろよ」
「・・・産むわ」
「そうじゃねぇよ」
「え・・・」
「もっと身体、大事にしてくれよ。見た目が若くても、高齢出産なんだから絶対無理するなよ」
顔だけを彼女に向けると、我慢しきれないようにぽろぽろと涙を流した。
ばぁか。
お前、これから仕事なのに、そんなに泣いたらバレるぞ。
それとも、俺が産むのを反対するとでも思ったのかよ?
嬉しくないわけないだろ、この大馬鹿野郎。
「とりあえず、明日朝イチで社長に報告な」
「ぅん・・・。怒られそうね」
「覚悟の上だ。まぁ、なんとでもなるさ。俺が、なんとかしてやるよ」
「・・・頼りにしてます」
涙を拭きながら笑った顔は、やっと安心できたという声が聞こえてきそうで。
『仕方なの無いヤツ』と思いながらも、こうして母親の顔になっていく姿を見ることが出来るなんて夢のようだ、と嬉しくもなった。
車を発進させる直前に、そっと水鳥のお腹に左手を伸ばした。
俺の手と、その手に重なる水鳥の手に嵌められたプラチナリングがキラキラと輝きを増した気がした。