モン・トレゾール

「……ママ」


体に圧を感じなくなると、その子は抱き締める腕の力を緩めたようだった。


……ヤダ私、こんな子供相手になんてことを言っちゃったの?


俯き大粒の涙を浮かべたその子の様子を見て、自分がしてしまったことにようやく気がついた。


「……ご、ごめんなさい。でも、そのぉ……私はあなたのママにはなれないの」


「またそうやって私の存在を消そうとするのね」


姿は子供のままなのに。急に大人びたその子の口調に驚くと、思わずハッと息を飲んだ。


「……またって……私、本当にあなたのこと知らないのよ」


どうしてだか分からないけど、この子……凄く怖い。


「そう、分からないならしょうがないわね」


その子は悲しそうに小さく溜め息をついて見せると、扉を開けて外の浜辺の方へと歩き出してしまう。


「……待って」


「あの子のことは知らないんだろ?」


彼女を追いかけようとする私と、それを止めようとする声。


振り返ればその人の顔を見ることが出来るのに、どうしても今は振り返ることが出来ない。
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