モン・トレゾール
「もういいから目を開けてごらん」
目隠しされるかのように両目が塞がれると、同時に体も動かなくなった。
「……あなたは誰?」
例え夢の中であっても、目が覚める前にこの人のことだけは思い出したい。
「ここで見たものは全て忘れて」
……ダメよ、そんなのダメ。
このまま目を開いたら、あなたが誰なのか確かめることも忘れちゃうじゃない。
「それでいいんだよ。君にはまだ早すぎたんだ」
……早すぎたって何?
「3つ数えたら目を開くんだよ。1つ、2つ」
「……ま、待って」
「3つ」
―――
――……
……やっぱり夢だったの?
見慣れた天井と、いつもの部屋。
目が覚めると、私は一人寝室のベッドの中にいた。
体を起こすとグルグルと眩暈がする。
……なんだか凄く気持ち悪い。
体をふらつかせながらも起き上がると、真っ直ぐキッチンへと向かう。
グラスのギリギリの量までミネラルウォーターを注ぐと、ゆっくりとそれを飲み干した。
かなり長い悪夢をみていたような気分だけど――3つ数えたら忘れるなんてウソじゃない。