モン・トレゾール
とても長い間眠っていたように感じたけど、時計はまだ夜の11時を回ったばかりだった。
だけど、玄関に彼の車のキーがかけてあるから――多分色々とバレてるわよね?
「はぁー、どうしてピアノなんて弾いちゃったんだろ」
本当はちゃんと断るべきだったのに。あのおばさんにどうしてもって言われたら、断り切れなかった。
私にとってピアノはママと自分を繋ぐ特別な存在。
周りからそれを否定されてからというもの、ずっと触れずに封印してきた。
だから、さっきは――自分のピアノの音を聴くだけで昔を思い出して、どんどん嫌な気持ちになって酷く眩暈がした。
だけど、あの音を聴いて分かったことがひとつだけあった。
他人が言う通り、やっぱり私のピアノは所詮はママの真似ごと。
それに気づいちゃったから、余計に気分が悪くなっちゃったんだけど。
「隠れてコソコソ夜遊びなんて、いいご身分だな」
「……ひっ!?」
背筋がピンと伸びるくらいに背後で恐ろしい声がする。
「ご、ごめんなさい! でも、でもね。これにはそのぉ……深い理由があって」
「へぇ、そんな倒れるほどの深い理由なのか」
「……うっ」
キッチンとリビングを繋ぐ対面式のカウンターの端に腕組みをして寄り掛かる彼。
……なんかもう、すみません。ホント返す言葉もないです。