モン・トレゾール

とても長い間眠っていたように感じたけど、時計はまだ夜の11時を回ったばかりだった。


だけど、玄関に彼の車のキーがかけてあるから――多分色々とバレてるわよね?


「はぁー、どうしてピアノなんて弾いちゃったんだろ」


本当はちゃんと断るべきだったのに。あのおばさんにどうしてもって言われたら、断り切れなかった。


私にとってピアノはママと自分を繋ぐ特別な存在。


周りからそれを否定されてからというもの、ずっと触れずに封印してきた。


だから、さっきは――自分のピアノの音を聴くだけで昔を思い出して、どんどん嫌な気持ちになって酷く眩暈がした。


だけど、あの音を聴いて分かったことがひとつだけあった。


他人が言う通り、やっぱり私のピアノは所詮はママの真似ごと。


それに気づいちゃったから、余計に気分が悪くなっちゃったんだけど。




「隠れてコソコソ夜遊びなんて、いいご身分だな」


「……ひっ!?」


背筋がピンと伸びるくらいに背後で恐ろしい声がする。


「ご、ごめんなさい! でも、でもね。これにはそのぉ……深い理由があって」


「へぇ、そんな倒れるほどの深い理由なのか」


「……うっ」


キッチンとリビングを繋ぐ対面式のカウンターの端に腕組みをして寄り掛かる彼。


……なんかもう、すみません。ホント返す言葉もないです。
< 115 / 147 >

この作品をシェア

pagetop