モン・トレゾール

「おまえさぁ」


手を広げながらズカズカと私の方へと向かってくる彼に、思わず首を萎めた。


「頼むから、心配させんなよ」


「……へっ?」


てっきり頬でも叩かれると思ったのに、彼の広い胸でぎゅっと抱き締められるとなんともマヌケな声が出てしまった。


「……あのぉ、理さん?」


私が珍しくそう呼ぶと、今度は訝しげな表情で私を見下ろす彼。


「おまえ。それ、からかってんの?」


「ま、まさか」


ブンブンと何度も首を横に降ると、まだ抱き締められたままでいたい私は彼の背中に腕を回した。


なんか……絶対怒鳴られるの覚悟だったのに拍子抜け。


「どこか苦しいとことかないか?」


……苦しいとこ?


「う、うん。大丈夫だけど」


あんな夢をみた後だもん。そりゃあ少しは気分が悪いけど。


そんなことより。


「戸田さん達……どうなったんだろう」


せっかくのステージを私が台無しにしちゃったようなもんだし。


もしかしたら、私。ますます梨花さんのこと怒らせちゃったんじゃない?


……どうしよう、二人のこと応援しようと思ったのに失敗しちゃったかも。
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