モン・トレゾール

*

彼女の疑いの目の先には、テーブルの上に置かれたカップと灰皿がある。


もてなすつもりもなかったのに、勝手に奴が出して散らかしていった。


それも楽しそうにだ。


昔から笑ってる姿なんて見せたこともないくらい何を考えてるか全く読めない男だったけど、あっちに行ってからはまるで別人のように人が変わった気がする。


それにしても、電話してきたのは戸田だったはずなのに。


どこをどうすれば、戸田がアイツにすり替わるんだ。


……あの男、こっちに帰ってきてから四六時中コイツのことつけてんじゃねぇのか?


この間浩に弱音を吐いたばっかだって言うのに、こうも簡単に考えていたことが現実になると、逆に何も考えない方が上手くいくんじゃないかと思ってしまう。


篠田拓真(しのだたくま)は、浩の嫁である沙羅の年の離れた兄で俺の従兄にあたる男。


俺とアイツの母親は双子だ。
だからか、よくガキの頃から周りからよく似た兄弟と間違えられてきた。


そして、いつも決まって間違えられて不機嫌になるのはいつもアイツの方だった。
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