モン・トレゾール
「……ねぇ、まだ怒ってるの?」
すっかりと片付けられたリビング。
パソコンのイスに座る俺の前にちょこんと膝を折ると、反省したウサギのように小さくなった彼女が下から俺の顔を覗いた。無造作に一本にまとめた髪の隙間からは白い項(うなじ)が覗く。
白くてスベスベな肌のこのウサギは、その見た目とは裏腹に意地っ張りで全然言うことを聞いてくれない。
「お昼のことだって、私が理を信用してないようなこと言ったから……ずっと怒ってるんでしょ?」
俺が考えていることと果てしなく論点がズレてる気がするが、そこがまた可愛くて仕方ない。
「信用してないの?」
「……違う。信用はしてる、してるけど……時々不安になるの」
真顔でマトモな主張を始めたかと思うと、すぐに顔を真っ赤にする姿も見ていて飽きない。
「不安って? 今まで愛莉を不安にさせるようなこと俺がした?」
「した」
そこは即答なのか。
「例えば?」
「……30周年のパーティー、連れてってくれないって言ったじゃない」
やっぱりそれか。
「そんなに行きたい?」
まるでそう訊かれるのを待っていたかのように、潤んだ瞳を輝かせるようにコクンと頷く。
そんな彼女を見て、俺は心の中で深く溜め息をついた。
『理。おまえはどうでもいいが、愛莉ちゃんだけは出席させろよ』
今日の打ち合わせでそんなことをうんざりするくらい言われた。
……あのクソ親父、決めなきゃいけないことは全部後回しにしやがって。
何の為の会議だったのか分かんねぇじゃねぇかよ。