モン・トレゾール

『親が借金を作ったから、俺が助けないと』


そう翔太(しょうた)は言った。


だけど実際は、浮気相手の中絶費用に困っていただけ。


しっかりした会社からの内定を貰った翔太の未来には、妊娠させた相手は愚か彼女だった私の存在なんてなかった。


あの時は本当に悔しくて、涙のひとつも出なかった。


翔太にとっての私は、ただの都合のいい女。


だけど、別れたくないって縋(すが)りつかなかったのは、好きって気持ちじゃなくて情だけで一緒に居たんだって気づいたからだった。


それからの私は、男は浮気する生き物だと決めつけてきた。


だから、まだ翔太と付き合ってる時に出会ったこの人に惹かれ始めていた自分も許せなかったし、認めたくなかった。


お店に立ってから5日目の夜。


名刺の渡し方ひとつを取っても、上品で丁寧で茜さんのプロ意識は高かった。


見た目だけで言えば、茜さんはモデル顔負けの体型でキレイ系な女の人。


そんな人と同じテーブルについたら、当然お客さんの興味は茜さんに向く。


だから逆にやりやすかったって言うのもあるんだけど。


そんな中で、たった一人。茜さんを無視した人が居て……それが彼だった。

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