モン・トレゾール
どんな大人しいお客さんでも、お金を払ってる以上お酒が入ると態度が大きくなったり馴れ馴れしくなるのに。
彼は特別何かを要求するわけでもなく、ただあのお店に通いつめては私を隣に座らせてお酒を飲んで帰るだけだった。
それも、他の席につかせないくらいの金額のお金を払って。
けど、そんなことをしてくれたから面白くなかったのは茜さんで。
あの当時、私は茜さんからの嫉妬で毎日胃がキリキリ痛かったのを覚えている。
「……私、あの時相当苦労したんだから」
横に座って小声で話しかける私の気配にも気づない彼。
こんな風に順序立てて記憶を思い起こしても、一番思い出したい部分が甦ってこない。
それどころか、考えれば考えるだけドツボにハマりそうになってくる。
ギシッとベッドが軋む音がたてると、座ったまま覆い被さるように彼を真上から見下ろした。
……私、このままだと眠れない気がする。
ゴクッと喉を鳴らすと、ベッドの周りを照らす照明ランプに手をかける。
「理、起きて」
枕の横に置かれた彼の手に指を絡ませると、耳元でそっとそう囁く。
カーテンの隙間から漏れる夜の光が、今夜はどこか青く見えた。