モン・トレゾール

「……理」


俺の名前を呼ぶ柔らかい彼女の声。


抱き締める腕にスッと重ねられた手がひんやりと冷たく感じた。


例え許さないと言われてたとしても、このまま彼女に全てを話せたらどんなに楽だろう。


こんな風に手を伸ばせば届く距離に居るのに、抱き締めれば抱き締めた分だけどんどん彼女が自分から離れていく気がする。


……フッ、楽だなんて、俺はバカか?


止まったままの時計が再び動き出した時、彼女の隣にもう俺は居ないかもしれないのに。


そんなことを考えていると、それと同調するかのように彼女が俺の腕を押さえた。


「――つい、熱い、熱い!」


その様子に呆気に取られた俺に対して、離して、と続けた彼女は今度は膝の上から降りようと急にバタバタと両足をばたつかせてくる。


「……あ、愛莉?」


「もう! どうしてっ、こんな状態でお風呂なんか入ったのよ!!」


この展開の一体どこに泣くポイントがあったのか。


癇癪(かんしゃく)を起した子供のように、床に膝をついて涙を見せる彼女に俺は戸惑うばかりだった。
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