モン・トレゾール

―――

なんだか、急にどっと疲れた。


マンションに帰る車の中。私は大きく溜め息をついた。


朝はノリノリで仕事に行ったのに、まさかこんなことになるなんて。


それに――


「それで? 久しぶりのお酒は美味しかったですか? 愛莉ちゃん」


めちゃくちゃ不機嫌だったこの人は、さっきの私の言葉ですっかり機嫌をよくしていた。


「お酒なんて飲んでない」


これで酔ってなんかいた日には、死ぬまで酒は飲むなとかって言われるに決まってる。


「ウーロン茶、約束通り外でお酒なんか飲まないわよ」


口を膨らませて少し拗ねて見せると、車の窓を開けて冷たい夜風にあたった。


……戸田さん。あのお店を出る時には、何も言わなくなっちゃった。


自分の会社の社長の奥さんが私だったから、やっぱりショックだったのかなぁ。
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