モン・トレゾール

「用があるから昼はダメだな」


徐々に冷め始めたコーヒー。


マグカップを持ったまま、戸田さんはそのまま歩き始める。


「ちょっと待って」


「おいっ! ……ったく、零れるだろ」


思わず腕を掴んで制止しようとすると、カップの中身が零れそうになったようだった。




「そこまで言ったなら、教えなさいよ」


ここまで譲歩したというのに、こうもあっさりと断られると納得がいかなくなる。


「だから、今夜付き合ったら教えるって言ってるだろ」


だから、それは無理だって言ってるのに。


……あれ? でも、こんなに夜にこだわるってことは、もしかして――


「……梨花さん、でしょ?」


その名前を出すと、戸田さんの表情が一瞬で変わる。


いくら男の人の気持ちが分からないって言われても、私にだってそのくらいは分かる。


戸田さんは、私を同伴にしてあのお店に行こうとしてるんだ。

< 73 / 147 >

この作品をシェア

pagetop