モン・トレゾール
「用があるから昼はダメだな」
徐々に冷め始めたコーヒー。
マグカップを持ったまま、戸田さんはそのまま歩き始める。
「ちょっと待って」
「おいっ! ……ったく、零れるだろ」
思わず腕を掴んで制止しようとすると、カップの中身が零れそうになったようだった。
「そこまで言ったなら、教えなさいよ」
ここまで譲歩したというのに、こうもあっさりと断られると納得がいかなくなる。
「だから、今夜付き合ったら教えるって言ってるだろ」
だから、それは無理だって言ってるのに。
……あれ? でも、こんなに夜にこだわるってことは、もしかして――
「……梨花さん、でしょ?」
その名前を出すと、戸田さんの表情が一瞬で変わる。
いくら男の人の気持ちが分からないって言われても、私にだってそのくらいは分かる。
戸田さんは、私を同伴にしてあのお店に行こうとしてるんだ。