モン・トレゾール

この状態だとコンクールにも出られないし。


もうこのお店くらいしか弾ける場所はないから、失敗は許されない。


大切なものは全て諦めた私には、もうこのピアノしか残ってないんだから。


それにしても……


さっきからあのテーブルだけが騒がしい。


それに、あの遼が……笑ってる?


――ダメね、私


集中しないといけないのに、どうしてもあの二人の様子が気になってしまう。


本当はまだ好きなのに、素直にそう言えない可愛げのない自分に嫌気が差してしまう。




「随分仲良さそうに話してるのね、遼」


自分で言ってて、ズキンと胸の奥が痛む。


こんなにも自分の言葉に傷つくなんて思わなかった。


だけど、そんな自分の姿は遼には見せたくない。


……そう、遼にだけは見せたくないのよ。


「初めまして、高宮梨花(たかみやりか)です」


遼がどんな女と付き合おうと、私の方がいい女だったってずっと思われていたい。


だから――


「……えっと、戸田さん?」


男に寄り掛かるだけ寄り掛かって生きてきたような女。


自分とはタイプが違うその惚けた態度が無性に鼻についた。
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