モン・トレゾール
「――ピアノはどうしたんだ」
この子に絡む私に腹を立てているのか、遼の声はさっきこの子と話していた時とは180度違って聞こえた。
「この後よ。それよりこの人、彼女なんでしょ? 紹介しなさいよ」
私って、ホント可愛くない。
こんな言い方しか出来ない自分を心底呪いたくなる。
「そう、新しい彼女だよ」
その言葉を聞いて愕然となった。
私、なにを期待してたのかしら。
昔、この人に何度か言われたことがある。
『おまえは強いから』とか『おまえなら大丈夫だから』って。
だけど、遼――
私だって女なんだから少しはキズつくのよ?
「……やっぱそうなの? それで? どこの大学を出てるのかしら?
遼――アナタ負け犬だから、どうせまた中途半端にピアノ弾ける子でも選んだんでしょ?」
これだけダメージを受けているのに、ここまで普通に出来る自分も凄いと思う。
――本当はもう負け犬だなんて思ってない。
誰よりも努力して誰よりも上を目指してきたことは、私が一番知っているから。
ただ、アナタにとって私は強い女だから、そんな風に言ってあげないとダメなのよね?