モン・トレゾール
私の病気は手術をしたからって簡単に治るものではない。
両親は離婚してて、たった一人の姉だって留学中で中々相談も出来なかった。
どうせ治らないんだったら、せめて聴こえてるうちだけでも最後までピアノの音に触れていたい。
そう望んだ私を遼だけは本気で心配してくれたのに、私はそれを素直に聞き入れることが出来なかった。
それからどんどん言い争いが増えてきて、耐えきれずに別れを切り出したのは私の方だった。
やっと音楽以外で夢中になれるものを見つけられた彼を、これ以上自分の我儘に巻き込みたくなかったから。
そして、最後の悪足掻きみたいに彼と交わした約束。
それは、私を納得させるだけの演奏が出来る子を私の前に連れてくることだった。
――だけど、皮肉よね? まさか彼女として連れてくるなんて。
「そう大口叩けるのも今だけでしょ?」
「梨花、アイツを甘く見ない方がいいぞ」
「あら、甘く見てるのはアナタの方じゃない?」
あんな見るからにド素人の子に、自分が負けるなんて思うプロがどこに居るのよ。
「フン、じゃあ教えてやる」
……なんか、やけに自信満々じゃない?
でも、こんな楽しそうな遼。久しぶりに見るかも。
「――アイツだよ、オマエが探してた湯川愛莉(ゆかわあいり)って」