モン・トレゾール
両親の離婚で、私は母方の実家に預けられた。
父は名高い財閥の跡取りで、それを継ぐべき長女である姉を引き取った。
父は、いつも厳格で。仕事仕事で毎日仕事ばっかり。
家に居てもろくに笑いもしないし、全然面白味のない人間。
――そんな父に、私は選ばれなかった。
母は随分と自分勝手な性格で、父を離婚するとすぐに新しい男をみつけて出て行ってしまった。
だから、大学院の費用も全て父に出して貰った。
それも、この私が頭を下げてよ。
でも、私のように選ばれなかった人間が、姉のように優雅に海外へ留学なんて出来るはずもなく。
恵まれた環境で、最高のレッスンが出来る彼女を妬んだ時もあった。
そんな姉と同じ境遇にあるのに。
恵まれた状況にあるのに、あの子は簡単にピアノを捨てたのよ。
――そんな子に、私が負けるはずないじゃない。
ピアノの前に座った彼女が私の渡した楽譜を開く。
こと細かくメモした練習の跡。それをサラリと目で追いまた閉じる。
……なに? まさか弾けないってわけじゃないわよね?
首を傾げたその様(さま)に思わず顔を顰(しか)めてしまった。