モン・トレゾール

まだ耳に残るピアノの余韻。


私の目の前で、多くの観客から盛大な拍手が送られる。


いつもはBGMとしてなんとなくで聴いてる人達が、あんなに反応するなんて。




――悔しいけど、私の負けね。


だけど、やっと分かった気がする。


父にも母にも、音楽にだって。


なぜ自分が選ばれないのか――その理由が。


誰からも求められなくても、ピアノだけは裏切らなかった。


大きな目標をたてても、ピアノだけはずっと見放さず側に居てくれた。


それなのに――私は、ずっと自分のピアノに背中を向けて……愛してるふりをしていただけ。


ピアノはずっと私の隣にあったのに。


湯川愛莉――彼女の音に、自然と涙が溢れた。




「オレの勝ちでいい?」


勝ち誇ったような遼の胸にも、今は素直にとび込める。


それでもウンと言いたくない私は、気づかなかっただけで今までだってこうして遼に甘えてたのね?


なんだ――


大きな縄で縛ったように雁字搦(がんじがら)めにして自分を追い込んでいたのは、私自身だったんじゃない。
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