淋しいお月様
また、私は妙に緊張してきた。

「それでは、まず歌っていただきましょう」

アナウンサーがそう云うと、セイゴさんは立ち上がり、画面から消えた。

「タクミの曲は、CMのあとで」

ぱっと画面が切り替わった。

車のCMが流れ始める。

一世一代のラブソングって……。

大切なひとに、向けられてるって……。

私は思わず胸に手を当てていた。

胸の高まりが、とまらない。

1分半ほど待って、また番組に切り替わった。

局アナが、マイクを持ってカメラ目線で紹介する。

「それでは、歌っていただきましょう。多久美省吾で、“僕の傘に入りませんか”」

彼女の言葉で、白いグランドピアノに座っているセイゴさんの画面になった。

遠くからのアングルで、セイゴさんは甘い3拍子のイントロを奏で始める。

テロップが出る。“僕の傘に入りませんか 作詞・作曲 多久美省吾”とある。

次第にカメラはセイゴさんに近づき、顔のアップになったところで彼は歌い始めた。
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