Love their
それは分かる。


分かるけど、…レイにはおじさんの言いたかったこととは違うような気がした。


「じゃあ、自分を一番に思わないとどうなるの?」


タクシーに向かって立ち去ろうとする運転手の背中に向かって声をぶつけた。


静まり返るこの場所にレイの声が軽く響く。



「風止まって蒸し蒸ししてきたなぁ…明日また雨かぁ?」


レイの問いかけには答えずに運転手が空を見上げてボソっと呟いた。



レイにはあまりよく聞こえなかったが答えではなさそうだった。


「…っねぇ?」


レイは堪らずにもう一度問う。



「結果、相手を不幸にさせちまうよ…まぁ、ちと大袈裟かな」




運転手はこちらを振り返ることなくタクシーに乗り込んだ。



ちょっと待って…と言おうとした時遠くから明るいはしゃいだ声が聞こえてきた。


時間外入口から3人の女性が出てきて、その内1人が道路の方へ歩いていき残りの2人がこちらに向かって歩いて来ていた。


レイはそれを見て立ち上がろうと少し浮かせたお尻をベンチにくっつけた。



お客だ。


仕事の邪魔をしないようにその場で居座る。



エンジンを噴いたタクシーの助手席の窓が開いた。


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