誰もしらない世界
歩はその晩、安いホテルに一人で泊まり、夢を見ていた。
それは過去の歩がオフィス近くのカフェで涙でゆがむ景色を眺めている風景だった。

歩は自分の後ろ姿に話しかける。

歩(ねぇ、どうして泣いているの?)

もう一人の歩(わからないの…でも悲しいの…)

歩(ねぇ、あなたは悲しいだけでいいの?)


もう一人の歩(私は泣くしかできないから…)

そんな風に過去の歩は答えると、歩はそう答える自分に強く話す。

歩(あなたがそうできないのなら、私があなたの代わりになるわ。私があなたの悲しみの分を取り返してきてあげる。)

そう言い、歩は背を向けてカフェを出る所で眠っていた歩は目を覚ます。
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