社長に求愛されました
「でも、考えてみれば社長がプリンスホテル・Kの御曹司って、すごく合ってますよね……。
お金の使い方とかおかしいし、乗ってる車も高そうだったし、会計事務所の社長ってだけじゃなんか変だなとは思ってたんです。
このファミレスだって、半年くらい前に私と来たのが初めてだって言ってたし」
今朝の衝撃発言から五時間が経った13時。
ちえりは篤紀に誘われるままランチに出ていた。お店はちえりがよく使うファミレスだ。
ここは全国チェーンのファミレスの中でも最も低価格だし、事務所から徒歩五分で着く。
そんな便利な立地条件にあるこの店を、恐らく黒崎会計事務所の他の社員だって週に一度は利用していると思われるのに、篤紀は入った事も気に留めた事もなかったらしい。
それどころか他のファミレスも未経験だった篤紀は、外で食事をとるというちえりについてこの店に入るまでドリンクバーというものさえ知らないでいた。
ファミレスだけでなく、ファーストフード店も行った事がないという篤紀を、今までどんな生活してきたのだと不思議に思っていたちえりだったのだが、今回の事でようやく合点がいった。
プリンスホテル・Kの御曹司ともなれば、一般的なファミレスやファーストフード店を利用する方がおかしいのかもしれないと。