社長に求愛されました
「別に金の使い方は普通だろ。確かに親父はブランド品とか買いあさって女に配ったりしてる時期もあったけど、俺はそういう事しねぇし」
「先月、頼んでもいないのに私に浴衣買ってきたじゃないですか。しかも高そうで気軽に着られなそうなヤツ」
「それは、花火行くっつってんのにおまえが浴衣持ってないとか言うからだろ。
それにおまえがいつも俺の金銭感覚がおかしいとか言うから、あの浴衣だって妥協した値段のヤツにしたんだからな」
「花火は浴衣じゃなくても見られるんです! それに浴衣って気使って大変なんですからね」
「だから俺が着付け覚えていってやったろ。おまえができないって言うから」
「浴衣の着付けなんて普通できないんです!」
なんでも私のせいにしないでください!と声を張り上げたちえりが、話題がズレいている事に気づいてハっとする。
それから、はぁとため息を落として、それより、と本題に入った。
「異動の件ですけど」
それだけでちえりの言いたい事が分かったのか、ああ、と頷いた篤紀が頬付えを外してソファの背もたれに寄りかかる。
「心配すんな。いい条件で働けるようにしてあるから。
給料も今よりいいし正社員だし、福利厚生もきちんとしてる」
「でも……何度も言うようですけど、私バイトなんです。
どう考えたっておかしいじゃないですか。異動して正社員になるなんて」
はっきりと言ったちえりに、篤紀は不満そうな顔を浮かべた。