社長に求愛されました


割り切れない気持ちがないわけではない。
想いを寄せている相手が自分以外の人と楽しそうに話していればそれはやはり気になるし、やきもちだって焼く。
篤紀はどう見ても楽しそうにしているわけではないし、和美の隣で死んだ魚のような目をしている篤紀はちえりと一緒にいる時とは大違いだ。

それを分かっていても、篤紀がどんなにつまらなそうにしていても。
自分以外の相手と一緒に話しているだけで、ちえりの胸をもやもやとした感情が覆っていた。
綾子に言われるずっと前から。

そんなもやもやを振り払うようにして、ちえりが答える。

「でも、白石出版の社長令嬢だったら、社長ともつり合うと思いますし」
「それ、社長が聞いたら泣くわよ、きっと。
っていうか、そういうの社長とちゃんと話し合った? 言ったでしょ、この間ちゃんと話せって」
「そうですけど……でも、言う必要もないかなって」
「必要ないわけないじゃない、ふたりの問題なんだから。
それにね、高瀬が気にしているような事は社長にとってはきっと何でもない事よ。
社長は高瀬といられるなら、高瀬との事で周りに何か言われたとしても気になんかしないでしょ」

もうじれったいわねとでも言いたそうな綾子に、ちえりは少しの間黙っていた。





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