社長に求愛されました
「部屋は、どうせどっかの高級マンションにでも住んでるんだろうなって簡単に想像ついたから聞くまでもなかったんですよ。
それに家の事は、部下の私が簡単に聞ける事でもないでしょ。失礼にあたりますから」
「何が失礼にあたるだ。仕事の邪魔するなだとか俺みたいに暇じゃないとか平気で言ってくるヤツが言える事じゃねぇだろ」
「それは、仕事をきちんとしてくれない社長に、可愛い部下からの叱咤激励で……」
「それに……俺とおまえはただの上司と部下じゃねぇだろ」
篤紀がブスっとした顔のまま言う。
不機嫌に顔をしかめながら、チラチラとちえりを見ながら言葉を探しているようだった。
「少なくとも俺は……それだけの関係だとは思ってない」
ボソっと言ってから頬杖をついて完全に目を逸らしてしまった篤紀。
不機嫌なチラ見からの一連の動作をただ黙って見ていたちえりは、そんな篤紀を見て可愛いなぁと心の中で笑ってしまう。
七歳も上のハズなのに、まるで言っている事が高校生くらいの男子だ。
好きな子と自分の関係が気になるのにきちんと聞くのは怖くて、俺はこう思っているという事だけ告げて相手の返事待ち。
はっきりと、おまえはどう思ってるんだという事は聞かないのは、聞いてはっきりしてしまうのが怖いのだろう。
ちえりは、篤紀が狙って堕ちない女の人なんてほぼいないんだからもっと強気でいけばいいのに、と内心思いながら「そうですか」とだけ呟いて、視線をテーブルの上にある紅茶に落とした。