社長に求愛されました


ちえりと篤紀の関係は、いうなれば恋人未満というところだろうか。
篤紀はちえりがバイトとして入ってきた時から既に意識をしていて、ものの一週間で、なんかちょっと気になるな程度だった気持ちは尋常ではない増幅率で巨大化していた。

ちえり本人どころか、会計事務所の社員全員がその気持ちに気づくほどに。

それもこれも、篤紀が気持ちを隠さないからだ。
はっきりとした言葉にこそしないものの、態度ではまったくもってちえりへの好意を隠そうとしない。
他の社員を差し置いて、バイトのちえりにあからさまな贔屓目線。

だが、社員からは不満がでるどころか、あの仕事をサボってだらだらしていただけの社長があんなに必死に片思いしているなんて、と温かく見守られている状態なのだから、この事務所少しおかしいのかもしれない。

けれども、社員が思わず応援してしまいたくなるのも分からないでもないのだ。
今まで何に対しても無関心でいい加減だった篤紀が、20歳やそこらのちえりに健気なほどに尽くしているのだから。

それと、篤紀が外見の割に恋愛慣れしていなく、色々と不器用なところもハラハラしながらも見守ってやりたくなる理由のひとつだろう。


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