蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「ただいま。とうとう降り出したよ、雪」
そう報告する拓郎の目には、楽しげな光が揺れていた。
「雪!? 雪になったの?」
そう言えば、暖房をかけているのに、急に部屋の温度が下がった気がする。
「ああ。淡雪だから、そんなには積もらないだろうけど、もう一面、真っ白になってるよ」
藍は、サンダルを引っかけて、パタパタと廊下に顔を出した。
「あ……」
藍の視界に飛び込んできたのは、闇の中浮かび上がる一面の白い色彩――。
家も道路も木々も、全てが白い色彩で覆われている。
雪の降り積もる微かな音だけが、静謐(せいひつ)なその世界を支配していた。
「綺麗――」
純白の絨毯。
それは藍に、あまりに早く逝ってしまった、白い子猫を思い起こさせた。