蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

「ちょっ、ちょっと待って下さい!」


「待ったナシって言っただろう。ルールは守らなくちゃ行けないよ」


そう言うと拓郎は情け容赦なく、藍の両頬に両手に持った雪玉を『パチン』と塗りつけた。


「きゃあ!」


冷たい雪の感触に、藍は小さな悲鳴を上げて身をよじる。


「ほい次。じゃんけんぽん! はい藍ちゃんの負けー」


「も、もう、いいですー!」


何のことはない。じゃんけんで負けたら『頬にゆき玉ぱっちん』と言う遊びなのだが――。


アパートの人気のない駐車場。淡い街灯の明かりに、舞い散る雪がキラキラと反射している。


その中で、子供のようにはしゃぐ大人が二人。


「はい遠慮しないで、頬っぺ出して!」


「いっ、いいです! 遠慮しますっ……きゃっ!?」


顔を両手で庇って後ずさった藍の右足が、雪にずるっと滑った。


スローモーションで世界が回転する。


藍が地面に後頭部激突を覚悟して目をぎゅっとつぶった瞬間、ふわりと力強い腕に抱き止められた。


「ごめんごめん。調子に乗りすぎた」


目を開けると、覗き込む拓郎の心配げな瞳。


その余りの近さにドキリ――と藍の鼓動が高鳴る。

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