蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「良かった」
「えっ……」
「やっと、元の藍ちゃんに戻ったみたいだから、良かったと思って」
藍を抱え込んだままボソリと呟く拓郎の真っ直ぐな瞳は、穏やかな光が揺れている。
ああ、私。
私は――。
藍の心の奥で、何かが熱を帯びていく。
それはたぶん、出会ったときに芽生えて、少しずつ育まれてきたもの。
心の奥の、一番柔らかい場所に芽吹いた小さな種は、今、花を咲かせようとしていた。
「……あの」
そう、今日はバレンタイン。
「うん?」
女の子から告白しても許される日。
藍は、美奈の言葉を呪文のように心の中で唱えて自分を鼓舞する。
今言わなければ、二度とその機会は無い気がした。
叶わなくても。
片思いでも。
それでも、いい。
胸の奥に溢れる、この熱い思いを伝えたい。
「私……」
「うん?」
「私、芝崎さんが、好きです」