蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

――問いただすべきだろうか?


それとも、今まで通り、自分から話してくれるのを待つべきか?


今まで、何度となく逡巡してきた思いが、又拓郎の心の中でせめぎ合う。


「あのさ……」


「はい?」


聞いてしまえばいい。


実は、そんなに大した事はない内容かもしれないじゃないか。


そうは思うが、それでも、そこを踏み越えてしまえるだけの思い切りが拓郎には出来ない。


誰にでも、触れられたくない部分はあるものだ。


拓郎にだって藍に話さないで居ることはいくらでもあるし、それこそ、話したくないこともあるのだから。


「……コーヒーを一杯」


「はい、コーヒーですね」


言いたくないのには、それなりの訳があるのだろう。


『いつか、藍が自分から話してくれるまで、待とう』


屈託のない藍の笑顔を目を細めて見詰めながら、拓郎は今まで通り、そう結論を出した。


その決断を、後々、後悔と共に苦い思いで振り返る事になろうとは、露ほども思わずに――。



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