蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
自分の身に何が起こったのか分からないのだろう。藍は『ぴきっ』と身体を強ばらせ、ゆっくりと視線を上げた。
視線と視線が交わり、その奥に情熱という名のほのかな熱が明かりを灯す。
「人を好きになるのに、理由はいらないよ。好きだから好きなんだ」
拓郎は、自分の心に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
そう。
理由なんて、いらない。
初めは被写体として惹かれたとか、
家出中で身元が不明だとか、
何か、心に抱えている物があるとか。
境遇や環境、年齢、その他諸々の事はあくまでその人を構成する一つの要素に過ぎない。
全てを取っ払った後に残るのは、いつだってシンプルな気持ちだ。
どうして好きかとか、好きになっちゃいけないとか理由を探すよりも、最後に残ったその気持ちこそが真実。
ね? と拓郎が顔を近付けて瞳を覗き込むと、藍の頬は上気して色付き始めたリンゴのように赤く染まった。