蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

これ以上近付いたら、何処まで赤くなるのだろう?


「あ、あの……、芝崎さん?」


至近距離で拓郎に見詰められた藍の声は、恥じらいで小さな呟きになる。


一度心を決めてた拓郎は、すっかり自分のペースに藍を巻き込んでしまった。


亀の甲より年の劫。


ペースを乱されっぱなしだったが、これでやっと面目躍如だ。


「芝崎さんじゃなくて、拓郎」


「はい?」


「もういい加減に、『芝崎さん』は卒業してもいいと思うんだけど?」


「拓郎……さん?」


「さんは、余計」


「拓……郎?」


「合格。俺もこれからは『藍ちゃん』じゃなくって、『藍』って呼ぶことにするよ」


見つめ合う瞳に、お互いの瞳を映しあう。


「拓郎?」


「何、藍?」


『何だか、くすぐったい』


ただ名前で呼び合うだけなのに距離がぐんと近くなった気がして、二人は少し照れたような表情で顔を見合わせる。

< 193 / 372 >

この作品をシェア

pagetop