蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
お互い視線を交わして、クスクス笑い合う。
「ハッピー・バースデイ」
そう囁いて、拓郎は藍のおでこにキスを一つ。
右頬に、次は左頬に。
だんだんと熱を帯びながら降り注ぐキスの雨が、やがて唇に届く。
触れた唇から唇へ。
絡ませ合った指から指へ。
抱きあった身体から身体へ、想いは止めどなく溢れ出す。
心と身体を、いっぱいに満たしていく。
たぶん幸福とは、こんな風に思い合う相手と温もりを分かち合えること。
心を、存在の全てを、分かち合えること。
きっとこれからも、こうしてずっと――。
拓郎は、そう信じて疑いもしなかった。
でも、翌日。
まだ日も昇らない早朝、藍は、拓郎のアパートから忽然と姿を消したのだ。
一通の、短い別れの手紙だけを残して――。