蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

長い自失の後、拓郎はまず大家の君恵の所を訪れ、藍が立ち寄っていないか確かめにきたのだが、半ば予想していた通り、藍の姿は無かった。


よくよく思い返せば、突然言いだしたあの動物園行き。


あれが予兆だったのだ。


そして、その帰りに藍が買ったレターセット。


家に手紙でも書く気になったんだろうと、拓郎は思っていた。だが、置き手紙に使われたのは、そのレターセットだ。


おそらく藍は、以前からアパートを出ていくことを考えていたのではないか?


お前は、何を見ていたんだ。


一人で舞い上がって、いい気になって、藍の心の奥にあるものを見ようともしなかった。


お目出度いにも、程がある。


後悔と共に、苦い思いが拓郎の胸の中を駆け巡る。

< 195 / 372 >

この作品をシェア

pagetop