蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「こんな朝早くに、すみませんでした……」
玄関で出迎えてくれた君恵と美奈母娘は、一様に心配げに表情を曇らせた。
「昨日は、あんなに楽しそうにケーキを焼いていたのにねぇ……」
心配そうに呟く君恵に頭を下げて拓郎は「少し心当たりを探してみます」と、玄関から飛び出すように駆けだした。
「拓郎!」
追いかけて来た美奈に右腕を掴まれ、拓郎はガクンと足を止めた。
「何があったの? 喧嘩でもしちゃった?」
色々けしかけて来た分責任を感じているのか、美奈はいつになく気弱な表情をしている。
あなたのせいじゃ無いですよ、美奈さん。
悪いのは、この役に立たない寝ぼけた脳みそだ。
「喧嘩をしたなら、わかりやすいんですけどね。もう何が何だか、良く分からなくて……」
拓郎は、力無く首を振って呟いた。
納得が行く理由が在るのなら、あるいは諦めも付くのかも知れない。
でも実際、拓郎には何故藍が居なくなったのか、皆目見当が付かないのだ。
「とにかく、出掛けてきます。もしも藍が戻ってきたら、その時は携帯に連絡を貰えますか?」
「それは、良いけど……」
「それじゃ、行って来ます」
ペコリと美奈に頭を下げると拓郎は、アパートの駐車場まで駆けていき、もどかしげに自分の車に飛び乗った。