蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

万が一ガードマン達に見咎められた場合を考慮して、拓郎の素性は、先刻使った『新任の麻酔医』のままで通す事にした。

再び、柏木から白衣とメガネを借りて変装した拓郎の姿を、藍がまじまじと見付めている。

それに気付いた拓郎は「意外と、似合うだろう? 少しは賢く見える?」とおどけて見せた。

覚醒してからまだ数時間。

身体が本当では無いのもあったが、藍には拓郎と居た時の覇気が無かった。

何処か遠慮しているような、そう丁度初めて藍に会った当初に感じた微妙な距離感を、拓郎は感じ取っていた。

そう言えば、まだまともに話をしていなかったな……。

拓郎が藍に話し掛けようとしたその時、日掛藍が藍の耳元に口を寄せて何やら楽しそうに「こしょこしょ」と内緒話しを始めた。

「えっ?」

と藍が驚いたように声を上げる。

「お、お姉ちゃん……」

「いいから、いいから! ほら!」

ためらう藍の両手を取って、お姉ちゃんこと日掛藍は、グルグルとまるでダンスを踊るように部屋の中を回り始めた。





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