「國相さん。夕食の準備出来ましたよ」
「……」
返事がない。
居ないのかな。
「國相さん。居ますかー」
「……」
やっぱり返事がない。
「國相さん、入りますよ」
凄い。一時間もたっていないのに荷解きが全部終わってる。
あっ。居た。
部屋の隅っこに布団が敷いてあって國相さんはそこで寝ていた。
寝顔可愛い。
「國相さん起きて下さい」
体を揺すっても全然起きる気配がない。
「國相さーん」
「……」
どうしたら起きるかな?
うーん…
そうだいい事思いついた。
「起きて下さーい。國宮茅さーん」
「…その名前で呼ぶな」
起きた。今度からこれで起こそう。
「夕食の準備できましたよ」
「分かった」
「私は先に行っています。部屋から出て右に進むと奥に広い部屋があるのでそこに来て下さい」
「分かった」
意外に素直な人。
もっとお腹の中真っ黒なのかと思った。
お茶を入れて待っていると國相さんが入って来た。
「着替えて来たんですね」
「こっちの方が楽だから」
「そうですか」
國相さんの服装は少し紫がかった青の着流し。
似合ってるなー。
でも意外。
「俺がどうかしたか」
「着流しを着るなんて少し意外だと思っただけです」
「着物の方が落ち着く」
テレビで見るときはいつもお洒落な洋服だから和服は新鮮な感じがする。
「メシ食っていいか」
「あっ、どうぞ」
「頂きます」
「頂きます」
國相さんも私も一言も喋らない。
箸と食器のぶつかる音が部屋に響く。
この空気嫌だな。
何か喋らないと。
「あの…國相さんの家って茶道の家元なんですよね」
「そうだけど」
「だとしたら私達ってどこかで会ってたりしますか」
「する」
どうしよう私覚えて無い。
どうしてこんなこと聞いちゃったんだろう。
「ごめんなさい。私覚えていなくて」
「12年前」
「えっ?」
「12年前に会った」
12年前…私が5歳のとき?
うーん。
駄目。思い出せない。
「ごめんなさい。思い出せません」
「別にいい」
余計、空気が微妙になっちゃった。
他の話題にしなきゃ。
「兄弟とか居るんですか」
「兄貴が一人と妹が一人いる」
「三人兄弟なんですね。名前は何て言うんですか?」
「兄貴が凌哉で妹が茅花」
「へー」
「風葉は?」
「へ?」
どうしよう。変な返事しちゃった。
だって急に下の名前で呼ぶんだもん。
「兄弟とか居るの?」
「……」
「居るの?」
「居ません」
平常心。平常心。
「親は?」
「私が5歳のときに事故で二人とも…」
どうしよう。
私のせいで空気が重くなっちゃた。
よし3度目の正直だ。
「國相さんは学校行ってるんですか」
「仕事忙しいから学校には行って無い」
「そうなんですか」
芸能人ですものね。
「でも風葉は行ってるんだろ」
「はい」
「じゃあ俺も行こうかな」
「え?」
「風葉と同じ学校」
私の学校女子高なんですが…
「女子高ですけど」
「え?」
「私の学校女子高です」
そう言われた國相さんは何故か残念そうな顔をする。
「どうして残念そうな顔するんですか」
「風葉と同じ学校なら行ってもいいと思ったんだけど」
「でも同じ敷地内に系列が一緒の男子校がありますよ」
「えっ」
声高くなったよこの人。
「校舎やグラウンドは別ですが食堂は一緒ですよ」
「ほんと?」
「はい」
「じゃあそこに入るわ」
そんなあっさり決めて大丈夫なんでしょうか…
「でも出席日数が足りないと進学できませんよ」
「できるだけ学校に行く」
どうして前向きなんですか?
「でも仕事沢山有るじゃないですか」
「うーん…」
そこは考えて無かったんですね。
「うーん…」
そんなに悩むんですか。
「…マネージャーに相談する」
そうして下さい。
「ご馳走様。美味かった」
「はい。ありがとうございます」
國相さんのお皿を見ると全部無くなっていた。
「あの國相さん。お風呂先に入って下さい」
「OK」
おじいちゃんが死んでからは食事は一人だった。
だから國相さんと一緒に食べれて嬉しい。
明日から頑張ろう。
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