*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
汀は必死で栗野の首にすがりつきながら、なんとか後ろを振り返る。





そこには、仏頂面で腕を組んだまま、無言で馬に揺られている灯がいた。






「まぁっ、蘇芳丸ったら、少しも落ちそうじゃないのね!


すごいわっ!!」






「……………」






「でも、ちょっと、私は今にも落ちそうなのよ!!」






「……………」






「ねぇ、蘇芳丸ーーっ!!


栗野を止めてちょうだい!!」






「……………」







汀が悲痛な叫び声を上げても、灯は眉間に深く皺を刻んだまま、ぴくりとも反応を見せなかった。





ただ、じっと睨めつけるように汀の顔を見つめている。






汀は不満そうに唇を尖らせた。





「蘇芳丸ったら、なんで無視するの?」





「……………」





「ねぇ、蘇芳丸!」





「………お前に噛まれたところが痛くて、何もやる気になれない」






灯は低く不機嫌に呟いた。






傍若無人な汀への、最大限の仕返しのつもりである。








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