箱入り結婚のススメ
「亜子ちゃん、先生は大丈夫」
無理矢理笑顔を作ったけれど、腕はどんどん痛みを増してきた。
小栗先生が亜子ちゃんをなだめようとしたのにうまくいかず、周りの子まで不安そうな顔をしだしてしまった。
「太知君!」
その時、教室から麻子が飛んできて太知君に駆け寄り、抱きしめた。
おそらく、園舎から様子が見えていたのだろう。
「速水先生は?」
麻子は太知君の無事を確認すると、私のことを心配そうに見つめる。
「うん……」
私がそっと腕を擦ると、「小栗先生、速水先生を職員室にお願いします」と亜子ちゃんの手を取った。
太知君も亜子ちゃんも、麻子のクラスだ。
「若槻(わかつき)先生……」
「大丈夫、任せて」
私が麻子に声をかけると、麻子は小さく頷いた。
園児たちは、幼稚園では担任がお母さん代わりなのだ。
他の先生でどうにもならないことでも、担任の麻子に任せればきっとなんとかなる。
そう確信した私は、小栗先生とともに職員室に戻った。