ビターエッセンス
私がこういう話し苦手なの知っていて言うんだから、ちぃさんもタチが悪い。

そんな私にお構いなしのちぃさんは、煙草の煙を目で追いながら話を切り出した。

「で、そんな公私充実中なのに、なんでうちの稼ぎ頭は仏頂面を下げているのかしら?」

陽希のマネージャーである佐竹さん情報では、撮影の合間や移動の合間に、スマホ見ては唸り声をあげてる、と。

「喧嘩でもしたの?」

「喧嘩なんてしてないですよ」


喧嘩では、無い。


「ふぅん。まぁ、私としては仕事に支障が出なければ何でも良いんだけれど。この間のCM見たでしょ?評判良いのよアレ。陽希の表情も自然に撮れてるし、第二弾も手堅いわね」

女社長の顔をしてホクホクと笑顔のちぃさんを前に、私はつい大きな溜息を吐いてしまった。


見ましたよ、見ましたともさ。


そのCMが元で、何となく気まずくなってしまったのだから。



―――――
―――

あれは10日前の夜のこと。

2人の予定が合ったこの日は、陽希が私の家に来ていた。

夕食を2人で作って食べた後、のんびりハーブティを飲みながらテレビを見ていると、あるCMが映った。

『美しい男女が2人じゃれ合いながらお互いの髪に触れ、男は女を後ろから抱きしめる』

30秒位のヘアケア製品のCM。


でも、その優し気な瞳も、愛おしそうに撫でる指先も、確かにハルのモノで。


何だか急に切なくなった。

これが彼の仕事だと分っているのに。
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