ビターエッセンス
ちぃさんは、今日何本目かの煙草に火を付けると、ゆっくり煙を吐き出した。
「なぁんだミッチー。もっと覚悟して陽希と付き合ってると思ってたわ」
「覚悟……」
「陽希はこれからもっと売れるわよ。なんてったって私が社長だしぃ。だからね、ミッチーは、あの男に愛される覚悟も自分が愛し抜く覚悟も、持たないと」
「そんな潤いまくった肌して何言ってんだか」とちぃさんは、私の不安を一笑に付した。
酒池肉林の贅を尽くした後、酔っ払ったからタクシーで帰ろうと言ったちぃさんに、少し歩きたいから電車で帰ると断りを入れ、私は1人歩く。
夜空には、ぽっかりと満月が浮かんでいて、私は足を止めてその魅惑的な月を見上げた。
本当に綺麗に見えるな、お月様。
口から吐く息は白いけれど、お酒の所為で体は暖かった。
……ハルの顔、見たいかな。
ゆっくりと歩き出そうとした時、後ろから来た大きな影に、突然腕を掴まれた。
「ひぃっ!!」
慌てて振り返ると、そこには肩で息を吐くハルがいた。
「こんな時間に女が1人で歩くなんて、不用心にもほどがある」
いつになく、強い口調の陽希に驚きながらも、黒いダウンジャケットと細身の黒いGパン姿の彼に目を走らせた。
なんで、ここにいるの?
私は口に出す前に、目で疑問をぶつけていたのだろう。
陽希は私を真っ直ぐに見つめながら、小さく微笑む。