ビターエッセンス


「黙って帰ったこと怒ってる?」

酔い覚ましのココアを飲んだ後、甘えるように私の太ももに頭をのせて来た陽希。

私はゆっくり後頭部をサワサワした。

私より長い髪は柔らかく、優しい手触りがする。

「……怒ってないよ」

「あの日、美知佳さんが素っ気なかったから、いじけたんだ。でも、あんな風に帰ったもんだから、連絡し難くなっちゃってさ。俺、小さいわ。……ごめんね、美知佳さん」

「……謝んないで。ハルががっかりしたの分ってた」

「俺さ、スチル撮りは好きなんだけど、本当はカメラ回されるの苦手なの。演技のイロハも知らない奴がこんなんでいいのかなって思ったりね。だから、今回は上手くいって嬉しかったんだ。本当は大の大人が、出来て当たり前の仕事なんだけど。」


陽希はいつもこんな風に自分をさらけ出してくれているのに。

勝手にショックを受けてたのは私。

写真で見る陽希より、CMの陽希の方がいつもの『私のハル』に近くて。

そして遠く感じた。


「私の気持ちの問題。……本当はあのCMすごく素敵だと思った。ただ、私の知ってるハルの顔だったから」

「嫉妬した」と口に出して言ってみると、これ程単純で恥ずかしいことは無い。

でもこれが本心だから仕方がない。

だから何も言えなかったのだ。


私が目を伏せて、こっ恥ずかしい告白をしているうちに、いつの間にか陽希の視線は、テレビから私の方へ移っていた。
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