今日は、その白い背中に爪をたてる
「はい、これかぶって。」



「え、これって……」



晴斗に渡された赤いヘルメットを持ったまま、私はジッとそれを見つめる。


道路に停められた、黒い大型のバイク。


まさかこいつ、ここまでこれに乗って来たとか言わないよな。


自動車よりもバイクは最高速度が速い、そして鉄製の壁が無く身体が剥き出しの分事故を起こした際の重傷度は高くて危険である。


身体、特に顔が重要視される仕事に就いている自覚はあるのかこいつは。



「バイクなんて乗ってて大丈夫なわけ?
マネージャーに危ないことするなって言われないの?」



しかしこいつは私の心配などどこ吹く風って感じで大きなそれに悠々と跨って、自分のメットをかぶっている。


聞いてねーな、こりゃ。



「イケメン俳優っていう自覚はあるんですか、戸川ハルトくん。」



諦めて私もヤツの後ろに跨って、くぐもる声を少し張る。



「今はそっちじゃないの、‘‘瑞原晴斗”として晶を迎えに来てんの。」



プライベートなんだ、最後に付け足された言葉にどきりとした。



『それってどういう意味?』



なんて気軽に聞けたらこの胸のモヤモヤは消えるんだろうか。



「へえ、‘‘戸川ハルト”が‘‘堂林アキラ”を迎えに来たってわけね。」



「…今本名じゃない方の‘‘あきら”って言っただろ。」



「さあ?どうだろう。」



「晶ちゃん〜〜。」



誤魔化すことしか、出来ないけれど。


半泣きで名前を呼ぶ晴斗がおかしくて私はケラケラと笑う。


と、ふいにダラリと下げていた両手が前から伸びてきたヤツの手に引っ張り上げられた。



ーえっ。ー



重なり合った手はヤツのお腹にまわされて、急に引っ張るから身体が前のめりになる。
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